新たな2023年度がスタートしました。

4月に入り全国各地で入学式や入社式が行われ、新人たちが自分たちの未来に向けて希望に胸を膨らませている姿はいつも見ても素晴らしいものですね。

K&Tファーマコンサルティングも新たな気持ちで製薬企業・バイオベンチャー企業の成長に向けたお手伝いをさせていただきたくスタートしたいと思います。

さて、製薬産業にとって新年度はどうなるのか、私はやはり薬価制度改革、特に総薬剤費の在り方についての国の議論の行方と来年の薬価改定(全面)が大いに気になるところですが、、、、

一方、イノベーションを求められる製薬企業にとっては、下記の項目が主な課題として挙げられると思います。

・創薬研究(新しい治療法の探索)

・開発(治験規制等の変化への対応とDX活用による効率化/患者負担の軽減)

・開発途上国での市場拡大

・医療のアクセシビリティの向上

・医師の働き方改革への対応

・デジタルヘルスケアの拡大

・AI活用による効率化と付加価値のより一層の向上

・MRの営業活動の変化と本部機能の役割分担

・人材開発とトップタレントの育成

・製薬産業全般におけるDXの急激な進展と対応

・持続可能性の追求

・生産・物流の変化

これらの課題について考察する前に、私自身一度「COVID-19感染拡大と製薬産業」について一旦総括する必要があると考えています。

下記文章は、私の原稿(2022年9月出版)の一部をご紹介するものです。ご参考までに5回シリーズで発信したいと思います。

第1回シリーズ

COVID-19感染拡大と製薬産業

本章においては,はじめに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大が医療に与えた影響について俯瞰し,患者・医師の行動変容のもと,製薬産業がどのような影響を受けたのか,定性,定量の実証分析に基づき明らかにする。また今後の製薬産業のあり方についても模索する。

1. 本章の目的

2020 年1 月から突如として発生した新型コロナウイルスが,国民一人ひとりをはじめ,国民経済と産業界に与えたインパクトは計り知れない。リーマンショックをしのぐ甚大な影響は,将来に向けた大きな変革への序章であるのかもしれない。

感染症という疾患は,人類が過去何千年にもわたって経験し,乗り越えてきたものである。戦後,主に細菌による感染症については,ペニシリンやセファメジンに代表されるセファロ系抗生物質,さらには合成抗菌剤などが相当な効果を上げ,日本の製薬企業も大きく貢献してきた経緯がある。

一方,2003 年のSARS,2009 年の新型インフルエンザ,2012 年のMERSなどのウイルスによる感染症が発生し,その後新たな未知のウイルスの発生が予見される中,ワクチン開発をはじめ公衆衛生という視点での感染症対策が,日本の政治,行政,医療界においてなおざりにされてきた経緯がある。ここに新型コロナが直撃した。

COVID-19 感染拡大は各産業に大きな影響を与え,航空,旅客鉄道,飲食,観光,宿泊,百貨店等において企業業績はとりわけ厳しく,一方,GAFA をはじめとする情報通信,サービス,巣ごもり消費といわれる食品,宅配等の業種は大きく上振れするなど,いわゆるK 字型の2 極分化となった。

製薬産業については,発生から1 年を過ぎた時点で,全体的には患者・医師の行動変容により数量ベースで厳しい影響を受けたが,医薬品の薬効領域(がん,免疫,糖尿病,循環器,抗生物質の感染症他)や薬価改定(2020 年4 月実施),さらには海外展開の状況等により,各社の影響度にはばらつきが生じている。

世界各国の対応の違いはきわめて顕著であった。日本の対応がどうであったか,評価はまだ定まっていない。

1 つ明確に言えることは,今回のコロナ禍において,日本は米国,EU からのワクチン輸入に全面的に依存せざるをえなかったということである。当初必要量のワクチン輸入が制限される中,創薬先進国といわれる日本でなぜ自前のワクチンが接種できないのか,家庭や職場をはじめとして多くの国民が強い疑問を抱いた。これほど日本の創薬力や開発力は落ちていたのか,ではどうすれば欧米並みになれるのか,今回のCOVID-19 拡大が日本政府と国内製薬産業に突き付けた大きな課題なのである。これについては詳細を後述する。

医療体制のひっ迫,患者・医師の行動変容,在宅勤務,リモートワーク,人事マネジメント,DX(デジタルトランスフォーメーション)の急激な進展,格差の拡大などの変化の中で,2 年半を経てもなお感染が収束したとは言えない状況下で,製薬産業について,一旦ここで起きたことの整理と影響について検証することは意味があることと考える。

製薬産業への影響についての検証を進めるにあたり,本章では,はじめに医薬品市場の分析結果について述べ,その後,創薬,開発,生産,営業までの各機能における影響を整理し,最後に将来のあり方についてまとめる。

2. 医療・医薬品市場と製薬企業の業績への影響

日本国内において初めてCOVID-19 の患者が確認されたのは,2020 年1月15 日であり,その後4 月中旬~下旬に第1 波,7 月下旬~8 月中旬にかけて第2 波,そして11 月に入り急激に上昇する第3 波が到来する。2021 年2月中旬になり第3 波の新規陽性者数は減少したものの,4 月に入りイギリス型N501Y という変異株の影響で再び第4 波が関西圏,首都圏を中心に襲い,その後も2021 年6 月下旬からの第5 波,2022 年1 月からの第6 波と続く。今後変異株に有効なワクチンが多くの国民に行き渡り集団免疫が形成されない限り完全収束は難しい。世界において過去20 年に4~5 回のパンデミックが起きていることを考えると今後も新種のウイルスが発生することは十分考えられる。

医療患者の受診動向については,日本医師会の調査(2020 年4~5 月調査,n=562)によれば,医療機関の受診が不安と答えた人は約7 割にのぼる。また,第1 波時に対面での受診を控えた人の割合は約15%であり,そのうち約半数は慢性疾患を有する人であった。

IQVIA ジャパン1(以下,IQVIA)の調査によれば,2020 年11~12 月の第3 波時は,外来調剤数の診療科別にみると耳鼻科と小児科で,対前年比25~30%の減少がみられる。また新型コロナの対応で大病院の病床が制限されたため,病床規模の大きい病院ほどコロナの影響を大きく受けた。

公益財団法人日本対がん協会は,COVID-19 の流行ががん検診の受診者数に与える影響の実態を把握するため,全国のグループ支部の協力を得て2020 年(1~12 月)の受診者数を調査した。回答があった32 支部が2020 年に実施した5 つのがん検診(胃,肺,大腸,乳,子宮頸)の受診者は,のべ394 万1491 人で,2019 年の567 万796 人から172 万9305 人減少し,対前年比30.5%の大幅減としている。

COVID-19 の流行は医薬品市場全体へ影響を与えた。影響が本格化する前には医薬品の在庫確保で前年比は増えているものの,第1波がピークを迎えた2020 年4~5 月期から影響が本格化し,第2 波の7 月下旬には対前年比95%近くまで落ち込んだ。

その後,数量累積は前年の97~98%で推移し,2020 年を通して前年比はマイナスとなり,新規患者や切り替え処方等は依然低位にとどまっている。

COVID-19 アウトブレークは医薬品市場動態に様々な変化をもたらし,患者の受診抑制,医師の新規・切り替え姿勢,製薬企業の製品販売・マーケティング戦略などに多くの影響を与えた。インフルエンザ治療薬もCOVID-19 により大きく影響を受けた。

インフルエンザワクチン接種が前年よりも早く始まり,数量も増加したことに加え,衛生管理(マスク,手洗い,ソーシャルディスタンス,3 密回避,緊急事態宣言の発令による人の移動制限等)が徹底された結果,2020年シーズンのインフルエンザ発生はきわめて少なく,治療薬の数量は激減した。

各薬効別の対前年比を見ると抗腫瘍剤や糖尿病治療薬,免疫抑制剤(抗リウマチ薬等)は数パーセントン伸びているものの,高血圧治療薬(▲ 7.3%),脂質調整剤(▲ 8.7%),喘息治療薬等(▲ 10.4%)はかなりの減少となった。抗生物質等も耳鼻科への患者数減の影響を大きく受けて減少(▲ 23.7%)した。

世界市場の医薬品市場の伸びはどうであったのか, 2020 年7~9 月における世界医薬品市場の伸びは4.3%であり,地域別にみるとアメリカ5%,欧州4%,中国4%と伸ばしている。さらに新興国では8%を超える伸びとなっている。日本はコロナによる影響に加えて2020 年4 月の薬価改定もあり,マイナス4.1%(世界市場との比較調整後)となっている。

次回(第2回シリーズ)に続く。

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